「自分へのお土産に何を選ぶか」で、その人の生活の解像度がわかると私は思っている。
記念品でも装飾品でもなく、日常の中の小さな摩擦をなくしてくれるもの。あるいは、存在すら知らなかった選択肢を教えてくれるもの。そういうものに出会ったとき、旅の密度は一段上がる。
先日のバンコク出張で、私はサイアムパラゴン地下のグルメマーケットに1時間以上いた。7種類の調味料を手に持ちながら、これは日本の台所への「アップデート」だと確信していた。
チューブという「設計思想」——スイートチリソース2種
日本でスイートチリソースを買おうとすると、選択肢はほぼ瓶一択になる。使い切れない量、開封後にどうしても垂れる注ぎ口、冷蔵庫の棚に残るべたつき。誰もが経験しているはずなのに、誰も解決しようとしてこなかった問題だ。
タイ人はとっくに解決していた。チューブ型だ。
今回選んだのは2種類。Healthy Boy Brandの黒チューブ(150g)は、砂糖43%・唐辛子6%・ニンニク2%という構成で、甘さの奥からニンニクが後押しする「主役級の脇役」だ。NO PRESERVATIVE・NO MSG・NO ARTIFICIAL COLOURの三冠も清潔感がある。一方、1958年創業の老舗Maepranom Brandの赤チューブ(95g)は、砂糖40%・赤唐辛子20%・ニンニク20%と、甘さと辛さの比率が拮抗している。バランスが端正で、どんな料理にも馴染む。パッケージに「ECO TUBE」の表記があり、スリーブ素材を30%削減していることも好感を持った。


ナンプラーの「深化」——Squid Brand 3種
Squid Brandから今回3本を選んだ。同じ「ナンプラー」というカテゴリの中に、これほどの多様性があることを、日本のスーパーの棚では気づけない。
まず、ピンクボトルの「Premium Fish Sauce(First Extract)」。原料はアンチョビ80%・海塩10%・ヒマラヤ塩10%。「一番搾り」という概念をナンプラーに持ち込んでいるブランドを、私はこれまで見たことがなかった。旨味の密度が違う。魚のアミノ酸の層が厚く、塩角が丸い。ヒマラヤ塩が効いているのか、後味が長い。
次に「Truffle Fish Sauce(トリュフナンプラー)」。180mlのシックなボトルに、イタリア産黒トリュフジュース2%を配合。アンチョビ78%・塩20%という骨格に、黒トリュフの香りが重なる構造だ。グルテンフリー・NO MSG・無添加。パスタに数滴落とすだけで、料理の次元が変わる。これは明らかに「調味料の越境」だ。
そして「Mala Spicy Fish Sauce(麻辣ナンプラー)」。四川の麻辣とナンプラーの旨味を掛け合わせた一本で、単体で使うというより、炒め物や鍋のベースとして「隠し味の設計図」を変えてしまう存在感がある。無添加・グルテンフリー。

「液体をやめた」醤油と、Golden Mountainの存在感
今回最も驚いたのは、Dek Som Boon Brandの「醤油タブレット(Soy Sauce Tablet)」だ。固形化した醤油が12錠入っており、1錠が20mlの薄口醤油に相当する。スープには水500mlに2錠、炒め物には野菜200gに1錠、ディップには温水115mlに1錠を溶かすという具体的な用法が明示されている。
醤油を「液体である」という前提から解放した発想だ。スーツケースで持ち運べる、冷蔵庫が不要、量を精密にコントロールできる。多拠点で移動を繰り返す私にとって、これは単なる調味料ではなく「ライフスタイルの道具」に近い。
もう一つ、Golden Mountain Brandのシーズニングソース(黄色キャップ・210ml)も外せない。大豆88%・砂糖5%・水3.99%・塩3%という構成で、MSG不使用。タイ料理の隠し味として現地で定番中の定番とされるこのボトルが、日本ではなかなか手に入らない。卵かけご飯に数滴落とすだけで、味の重心が変わる。

「生活の更新」という、最上の土産
多拠点で移動を繰り返す生活の中で、スーツケースに入れて持ち帰るものの選択眼は年々厳しくなっている。それでもこの7種は、荷物の重量を使う価値があると即断できた。
観光地でも、有名レストランでもなく、スーパーで過ごす1時間に、その街の生活文化の本音が詰まっている。サイアムパラゴン地下のグルメマーケットは、バンコクに行く機会があるなら必ず立ち寄ってほしい場所だ。品揃えの密度と水準が、日本のそれとは次元が違う。
バンコクの食材で、日本の台所が7段階アップデートされた。そういう出張の副産物は、本来の仕事の成果と同じくらい、私にとって価値がある。

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