礼文島にもカフェがある。カフェはどこにもあって当たり前なのだが、別に特別な場所にあるカフェを紹介したいわけではない。とは言えここのカフェ、日本海の夕陽が見える最北端のカフェであろう。いやいや、そういう話をしたいのではなく、このカフェの日本唯一とも言える特殊性を語ろう。
礼文等の特産はコンブとウニ。利尻昆布は羅臼昆布と並び、日本の最高級昆布である。そして高級昆布があるところには高級なウニが育つ。昆布はウニにとって最上級の餌である。
利尻昆布は京都の最高級料亭の出汁に使われる。昆布にもランクがあり最も高級とされるのが、天然採取、自然乾燥。高級昆布の漁は翌日以降の天気が良い日にのみ行われるのは、天日干しをするためだ。
ウニ漁は蝦夷バフンウニが6-8月の3か月、エゾムラサキウニが5月から9月の漁期にのみ、朝の2時間だけ許されている。漁師たちは船外機のついた小さな船に乗り、箱メガネを口に咥え、舵を足で取り、手で網を構えて漁を行う。
昆布も同様に小さな船で漁が行われ、こちらは太い棒の先に羽根のような部品がついたものをコンブの森を差し込んで、強い力で捻り、巻き取る。昆布は地上と同様に春になると大きくなり始め、秋になると枯れ始めるので漁期もそれにリンクしている。
私たちが礼文島を訪れたのは、9月の初め。馬糞ウニの漁期が8月末に終わり、少し肌寒くなった秋を感じさせる頃であった。キタムラサキウニ漁もあとひとつきのみ。そんな季節であった。
そのカフェ(正確にはダイニングカフェ)はその礼文島の賑やかな場所から離れ、漁師たちが住む集落の海際に突然現れる。
洒落た小さな店舗内にカウンターとテーブルが少々と、二十人ほどは座れる海沿いのデッキ。
私がうかがったときには「スガラボ」さんなどの超一流店で出てくる国産生ハムの最高峰、ボンダボンの多田さんがいらしていて「その最高級生ハムを彼自身が切ってくださる。」というイベントを開催していた。もちろんそれを主目的に礼文島まで行ったわけだが、このカフェ普段からとんでもないメニューを提供している。
レギュラーメニューは、ウニのパスタだったり、ボタンエビのパスタだったりといった礼文ならではのカフェ飯のほかにプレミアムハンバーガー、ピザなどの「ザ!カフェメニュー」と「うに丼」、「ローストボタンエビ」なんていうカフェっぽくないメニューも並ぶようだ。この日のメニューは特別であったのだろう。ボタンエビのフライとのムニエル、海宝小鉢、うにぎりなんて言うメニューが並ぶ。
我々はテラス席の一つを陣取り、オーダーしたものの到着を待った。ビールをまずは飲み干し、多田さんの手によって今切られたペルシュウ(生ハム)をつまみにランブルスコをあける。
このペルシュウは特別な機械で本当に薄く切られそれが独特の食感、ちょうどよい塩味のバランス、そして惚れ惚れとするビジュアルを生み出している。
この薄く切ったペルシュウ、何かに似ているなぁと思っていたら、大学の時にいつもやってた(さぼり学生だったので正確にはいつもやっていないが)病理切片のスライドを作る際の薄切というものにそっくりだと気付いた.
さて、ペルシュウに合わせたランブルスコが二本ほど空いたところで、海宝小鉢が到着。この海宝小鉢がとんでもない。
漁師さんがそこで採ってきた利尻昆布のジュレ(礼文島でとれたものも利尻昆布と呼ぶ)にそこで採れたばかりのボタンエビ、仕込みをしたアワビ(どんな仕込みをしたか聞いたのだが、酔っぱらっていて覚えていない)、そして剝きたてのバフンウニ。これはなんていうか、今まで数々のお店で同じ食材を使ったものを食べてきたが、まったく別の食べ物。特にアワビとウニ。実は個人的にアワビという食べ物にそれほど大きな興味を持っていなかったのだけど、これは心からもっと食べたい!と思った人生で初めてのアワビ。ウニは今まで塩水ウニが一番おいしいものだと思っていたけども、東京の塩水ウニを食べてももう心からおいしいとは思えないかもしれない。木箱に恭しく並んだウニのミョウバン漬けはさらに難しいかもしれない。そしてこれを昆布ジュレとマリアージュさせると、海の宝という表現がまさに適切な表現であろう。
その後出てきたうにぎり。「酢飯の上に乗っかった、たっぷりバフンウニを自ら海苔代わりに手でペルシュウで巻くうにぎり」。うにぎり。。。。。
とりあえず言葉は出ない。。。
14時だか15時だかの営業時間も終わり、カフェスタッフも仕事を終え我々の飲み会?に合流。同時に漁師さんたちも仕事を終え合流。盛大な飲み会が始まる。ここで出てきたウニのコブ締めなんて言うとんでもないものも登場する。そしてシメにはお茶漬け。てかこれはお茶漬けなのか?海の宝とペルシュウの出汁と塩味と利尻昆布の出汁のマリアージュ。うーん。僕の持っている日本語の語彙ではもはや表現ができない。
カフェの前はメノウ浜という浜で、メノウが混じった玉砂利の浜。そして今まで見たこともないくらいの透明度の海は昆布が大量に生えているせいかトロミを感じる。気がする。。気候も夏の最後の気候。皆でこのメノウ浜の海ににつかる。
冷泉。という言葉がふさわしい。いつまでも使っていられる。そんなメノウ浜で海の宝をいただき、「冷泉」につかりながら礼文島の夕日を眺めるという体験はお金で買えるものではないだろう。
礼文島のオンシーズンは7月から9月。短い期間であるがこの体験にぜひ挑戦してほしい。
https://goo.gl/maps/67RMTGDEGUESmKmF9
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