動物病院における人材の変化(人手不足を考える)

目次

このお話の結論

1. 動物病院の人手不足は、現在深刻な状況にある。

2. 動物病院に勤務する獣医師の比率は開業医に対して2倍に増加している

3. 動物病院の大型化と都市部への勤務医の集中も一つの要因。

4. ライフステージの変化による離職率の高さも大きな問題である。

5. 動物看護師は愛玩動物看護師として国家資格化され、雇用環境に大幅な変化が起こる。

病院の規模の変化

農林水産省の2005年のデータを見ると、動物病院1施設あたりの獣医師の人数は1人が71%、5人以上が5.5%、10人以上は0.1%となっている。

これが2021年には1人が62%、5人以上が7.6%、10人以上が3%になっている。これを見てわかるのは1施設あたりの獣医師の人数が増加し、より大型化していることがわかる。

特に10人以上の病院は30倍になっている。そして10人以上の病院の30%は、東京都と神奈川県に分布している。全県を見渡して病院の数に対しての大型病院の比率には大きな傾向があるわけではない。

2021年飼育動物診療施設の開設届出状況(診療施設数)
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/animal/attach/pdf/index-6.pdf

2005年飼育動物診療施設の開設届出状況(診療施設数)
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/animal/pdf/animal_hospital_05.pdf

獣医師の状況はどのようになっているのか?


獣医師は国公私立大学合わせて16大学から国家試験を経て輩出され、その人数は約1000人である。
獣医師の仕事の領域はとても広く、我々のような愛玩動物の診療を行うものが全体の40%程度。60%は畜産、公務員、研究職などその他の仕事についている。ちなみに2004年の農水省の統計では愛玩動物の診療に従事するものは30%であったことを考えると、数自体は確実に増えていることがわかる。特に勤務医に関しては約20年で約2倍になっていることがわかる。開設者に対しての被雇用者の割合は2倍以上になっていることも我々の肌感からはずれている。

2021年 獣医師の届出状況(獣医師数)
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/zyui/attach/pdf/index-3.pdf

2004年 獣医師の届出状況(獣医師数)
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/zyui/pdf/zyui_todoke_04.pdf

そして現在の学生の就職に関する意向はどうか?リンクのようにペットの臨床医になりたいという学生はまだまだ多いことがわかる。

https://vets-career.jp/column/0022/

動物看護師はどのような状況になっているのか?

令和元年11月1日現在、認定動物看護師の登録数は23,295人。現在、認定動物看護師(認定動物看護師は国家資格ではなく、業界団体が一定の基準を設けた民間資格である)になるための統一試験の受験するために必要なコアカリキュラムを履修することのできる教育機関は4年制大学が8校、専修学校が68校である。試験は年に一度、全国8都市9会場で実施され、合格者は登録により認定動物看護師資格を取得することができる。直近の平成30年度試験では、受験者2,333名に対し合格者は2,017名であり、合格率は86.5%であった。一つの病院に認定動物看護師2-3人が働いている状況である。愛玩動物看護師法が今年施行され、動物看護師が国家資格化された。この国家資格についての詳細はまた別のところで話すとして、初めての国家資格者が来年(2023年)の4月には動物病院で働くことになる。

資料(立法と調査 2019.12 No.419)
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2019pdf/20191220043.pdf

考察

動物病院においての人材不足は特に地方、中規模から小規模病院において深刻だ。獣医師は愛玩動物の獣医師を目指すものが減っているというのがこの2-3年のスタンスだが、実数を見る限りは減少傾向にはない。ただ男女比、労働環境、社会需要の変化などが特にこの数年で変わってきているのは事実である。また見えない部分での現場での離職率の増加、大都市部及び大規模病院への偏在なども大きな要因であろう。

また動物看護師に関しては、国家資格化によってこの人材の絶対量が増えるのか、減るのか?また獣医師のように地理的な分布が偏るのか?偏らないのか?全くわかっていない。18歳人口の更なる現象は確実に起こることであるし、受験資格を得ることができる大学は、首都圏を中心とした大都市に集中しており、この偏在が動物看護師に限り是正されるとは考えにくい。

これらの現状を踏まえ、この5年で起こる更なる雇用環境の変化に備えなければならない。

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この記事を書いた人

牛草貴博のアバター 牛草貴博 獣医師・博士(獣医学)

獣医師として臨床25年、40歳で博士号を取得しました。動物病院は横浜市中区、宮崎県宮崎市の二つの病院を経営しています。その間現在のイオンペット、動物再生医療技術研究組合、動物病院向けの12薬局、オーダーメイド腸内フローラフードの事業開発に携わってきました。また異業種の飲食のプロデュースをはじめとして現在はアタッシュドプレスルーム事業、ワーケーション施設の事業開発を行っています。食べることと鉄道を中心とした乗り物全般が趣味で最近はサーフィンやボディーボードなどを大学生以来再開しました。
もともと不動産が得意分野でしたが、株式、債券を中心とした金融全般も現在勉強中でいずれは自然に囲まれた中での3拠点生活を目標にしています。

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