このお話の結論
- 会計システムは自動化する以外の選択はない。
2. 想定していた形になるまでには最低2年かかる。
3. 導入に対しての最大のハードルは高齢者ではなく、内部スタッフの変化に対する考え方である。
省人化のためにはじめに取り組んだこと
先日、デイリー新潮でこんな記事がアップされた。
セルフレジ導入で人手不足解消のはずが、逆効果に? その事情を担当者に訊いてわかった意外な理由とは
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/08280601/?all=1
要するに「人手不足を見越して省力化のためにセルフレジを導入したが、導入前に比べてより多くの人手と手間と金がかかった。」ということだ。私が経営している横浜の病院では2020年の移転時に受付を廃止し、同時に自動会計システムを導入した。いずれ自動精算に移行することも見越して、セルフレジにそのまま移行できるようなシステムにした。2018年位からセルフレジのシステムを研究して、全国の病院、スーパー、コンビニ、その他個人商店などの現地調査を行ってきた。その途中では動物病院のカルテシステムの導入されたことも耳にしたので、そこにも調査にお邪魔してみた。
横浜の中心地というのは一見、最先端の都会的な印象があると思うが、いわゆる下町でもあり高齢者の割合も多く、ペットのオーナーの年齢やそれに伴うリテラシーもばらつきは大きかった。そのような属性の場所であるので、また動物を連れてという状況ではスーパーがその属性と近似しているため、同様のセミセルフレジという形で運用を始めた。
動物病院における省人化の必要性
動物病院という業界にも「人手不足」という問題は、日毎に深刻な状況になってきている。
その背景にあるものはどのようなことか。
こちらは別の記事で触れたので、参照していただきたい。
セミセルフレジとは
セミセルフレジとは、会計操作をすべてお客様に行っていただくのではなく、会計作業は従来どおりスタッフが行い、決済のやり取りのみお客様に行って頂く形だ。現在はこのセミセルフレジの形はたくさんのメーカーが扱っており、私たちは従来から使っている「スマレジ」というシステムに、グローリー社の自動会計システム300シリーズを接続した。スマレジはこのグローリー300シリースに対応しており、どのような形で購入しても使用することができる。
折からのコロナ禍の影響による半導体不足により、プロパーで購入するのにはかなりに時間がかかること、実際に導入してうまくいくのかもわからなかったことから、中古品を探し購入した。新品だと70万円程度、中古だと20万円くらいからで販売されている。
購入した商品は、グローリー社に連絡し、事前に整備してくれ(有料)保守にも加入することができた。自動会計システムは高価や紙幣を扱うものであることから、メカニック要素が強くトラブルを頻発する可能性も高かったため、また現状の半導体の問題から、システムが止まるとかなり厳しい状況が予想されたため、保守に加入した。
二年前の決断がどのような変化を生んだのか?。
実際にこの決断がどのような過程を踏み、どのような変化が生まれたのか?
一番の難関はスタッフへの説明であった。受付をなくす、会計を自動化する。と言うのはとても大きな変化に違いない。
基本人間は変化を嫌う動物だ。特に日本人にはその気質が高く、これは若いほうが変化に対する弾性は高いものの、かなりの抵抗を受けることが予想される。幸い私の組織では常に変化を心がけていたためにこの影響は少なかったと思うが、それでも様々な問題が発生した。問題の多くはお客様に対しての説明コスト、導入初期に起こる日々のトラブル、導入時には考えつかなかった問題の発生、などなど挙げたらキリがない。しかしうちのスタッフたちは、この様々な問題に対しても忍耐強く考え前向きに進めていってくれたと思う。2年経ってみて変化というステージは終わり、進化という次のステージに来ているのだが、実際に2年経ってどのような形に落ち着いたのか?
落ち着いたところにあったものは。
今現在のオペレーションを参照すると、
QRコードを読み取り受付
↓
診察
↓
処方システム入力・会計システム入力
↓
明細発行
↓
精算
のながれである。
これをいかに少ない人数で滞りなく進めるかが重要である。当然初期にはこのオペレーションに大幅な滞りがあり、フロントと現場で打ち合わせを重ね、現在はスムーズになりつつある。
重要な点はこれによって省力化ができたか?ということである。
もともとこの企画は、複数の動物病院の動物看護師に対して行ったアンケートがきっかけである。それは動物看護師が日々の仕事の中でどのようなことに神経を使い、何にストレスを感じているか?ということであった。その第1位が薬を間違えないように調剤する、間違えずに飼い主に薬を渡し説明する。2位がお金に関することであった。本来の動物看護師の仕事ではないことにストレスを感じているということに、たいへん驚いた。1位の薬剤に関しては法律的な問題もあり、現状はこれを改善すべく動物病院向けの12薬局(わんにゃん薬局)が開設され運用されている。この薬局の出現により、薬に対する動物看護師のストレスは大幅に減り、かつそれに取られていた時間はほぼゼロになったため、大きな改善が得られている。私の病院でもいち早くこのシステムを取り入れ、省人化、コンプライアンスの遵守、ペットオーナーの待ち時間の減少と、安心安全の提供というすべてを達成できている。2位のお金に関しては、従業員に一切現金を触らせないということで決済時の間違いが大幅に減り、ストレス緩和につながっている。また業務終了時にレジ上を行う際にもボタンひとつで一瞬で行うことができ、間違いも起こらないことから、大幅な改善につながっている。
まとめ
愛玩動物看護師という国家資格が生まれることにより、より専門的な業務に集中させることが必須である。それには彼ら自身が本来行いたい業務を優先できるような環境、それ以外の業務でのストレス及び省人化を最優先に行う必要がある。人材の獲得は年々厳しくなり、賃金を上げる、労働環境を改善するということも重要なことであるが、それだけでは他業種との競争と同じステージに立ったときには有利に働くことではない。動物看護師になりたいと思い、その思いを実らせ、本来的に彼らがやりたい仕事に集中できる環境づくりというのが急務であり、そのためには今回我々が行ったような環境整備というのも優秀な人材を獲得し、かつ省人化を進めるという一つの選択肢であると考えている。
結論としてセミセルフレジの導入は、大幅な省人化が図れるだけでなく従業員のストレスの軽減共に、それにつながる採用環境の改善にもつながる。
今後は段階的に、後から会計を行うような事後決済システムの導入(請求作業を即時行う必要がないというメリット)、電話を1/3に減らすための新しい施策を考えている。
資料
12薬局
https://boolean.co.jp/12pharmacy/
スマレジ
https://smaregi.jp/
グローリー300シリーズ
https://www.glory.co.jp/product/detail/id=44
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