バンコクに行くなら「2月〜3月」が正解だ。サラディーン市場の屋台とスーパーで食べ比べた、幻のフルーツ・マヨンチット全解剖

バンコクへ行く最適な時期はいつか、と聞かれたら、私は迷わずこう答える。「マヨンチットが出回っている時期だ」と。

気候で選ぶなら涼季(11〜2月)という答えが一般的だろう。しかし食の観点から見ると、話はまったく違う。2月中旬から4月頭というわずか2カ月足らずの短い期間にしか姿を現さない、タイ在住の日本人たちが「マヨ活」と呼んで毎年心待ちにするフルーツ——それがマヨンチットだ。

今回私は、バンコク・サラディーン市場の屋台と、大手スーパーマーケットの「Tops」の売り場を両方まわり、価格・品質・食べ比べを徹底的に試みた。食と温泉は全国を知り尽くしている、という自負があるが、このフルーツに関してはタイ現地でしか語れないことがある。その話をしたい。

マヨンチットとは何か——「ビワに似た顔をした、マンゴーの親戚」という矛盾

マヨンチット(タイ語:มะยงชิด)は、ウルシ科の植物だ。つまり、マンゴーと同じ科に属する。英語圏では「Marian Plum(マリアンプラム)」または「Plum Mango(プラムマンゴー)」と呼ばれる。

見た目は日本のビワとほぼ同じだ。初めて見た日本人の9割は「あ、ビワだ」と思うだろう。しかし、ビワはバラ科。外見が似ていても、まったく別物である。植物学的にはむしろ、マンゴーに近い。

主な産地はタイ中部から東部にかけてで、なかでもナコーンナーヨック県が名産地として知られている。栽培に気候条件が影響しやすく、晴天と雨量のバランスが重要で、量産が難しい。木が実をつけるまでに数年を要することも相まって、タイ国内でも「高級フルーツ」の位置付けだ。

もう一つ知っておくべき点がある。マヨンチットにそっくりな「マプラーン(มะปราง)」というフルーツが存在する。見た目はほぼ区別がつかない。しかし味が違う。マプラーンは甘みが強く酸味が少ない。一説によれば、マヨンチットはマプラーンに酸味を加えて品種改良されたものだとされている。甘さと酸味の「コントラスト」を求めるタイ人の味覚に合わせた、というわけだ。屋台で買うときは必ず「マヨンチット?それともマプラーン?」と確認することを強く勧める。

サラディーン市場の屋台 vs Topsスーパー——値段と体験の差分を解剖する

今回私が立ち寄ったのは、バンコク・サラディーン駅近くに立つサラディーン市場(Saladaeng Market)の屋台だ。写真の通り、屋台のカートには山盛りのマヨンチットが並び、活気ある女性の売り子が手際よく皮をむき、種を取り除いてプラスチックのパックに詰めてくれる。

屋台では100バーツ(約450円)でひとパック。中には剥き身で種なしのマヨンチットが12〜14粒ほど入っていた。皮むき・種取り込みのこのサービスが屋台の最大の強みだ。手を汚さず、その場で食べられる。氷の上に置かれているため、冷えた状態で提供されるのもいい。

一方、Topsスーパーの売り場では「Red Hot」の表示で79バーツ(約355円)という価格を確認した(通常価格は99バーツ)。こちらはパックに葉っぱと一緒に入った状態で販売されており、皮は自分でむく必要がある。売り場には大量のパックが積まれており、鮮度と品質管理という点ではスーパーに軍配が上がる。

どちらが「正解」かではなく、両方体験することに意味がある。屋台で売り子のおばちゃんの手さばきを見ながら食べ、翌日はスーパーで買って部屋でゆっくり食べる——この2段構えが、マヨンチットの「正しい食べ方」だと私は思っている。

味の構造——「マンゴー×桃×柿」という三重奏、そして後を引く酸味

食べた瞬間の第一印象は、「これはマンゴーか?」だ。ウルシ科らしい、トロピカルな甘い香りが鼻をつく。しかし一口噛むと、桃のようなみずみずしい食感と、心地よい酸味が広がる。後味にかすかに柿のような渋みと甘さが残る。

この複雑な味の構造が、マヨンチットを単なる「南国フルーツ」に終わらせない。食べているうちに、どんどん手が伸びる。それが「マヨ活」という言葉が生まれた理由だと、食べてみて初めて腑に落ちた。

タイ人の「正統な食べ方」は、プリックグルア(唐辛子・塩・砂糖を合わせた調味料)をつけて食べるスタイルだ。甘酸っぱいマヨンチットに、さらに辛みと塩気が加わる。日本人にはやや刺激的に感じるかもしれないが、一度試す価値がある。バンコクのカフェチェーン「After You」のマヨンチットかき氷にも、プリックグルアがトッピングオプションとして用意されている。

ちなみに、皮ごと食べるタイ人もいる。皮には適度な渋みがあり、それが好みという人もいるようだ。しかし私の感想を言えば、皮はむいたほうが断然うまい。種の周りの果肉が一番甘みが強い。屋台の職人的な手つきで種を取り除いてもらった果肉を口に入れたとき、その密度の高い旨味に驚いた。

なぜ日本では食べられないのか——植物検疫という「壁」の正体

マヨンチットを気に入ったとして、日本に持ち帰ることはできるか。答えは「ノー」だ。

日本の植物防疫法は、海外からの病害虫の国内侵入を防ぐために、生鮮果実の持ち込みを厳しく規制している。タイを含む東南アジアの地域には、ミカンコミバエ種群などの検疫有害動植物が生息しており、これらを寄主とする生鮮果実は原則として輸入禁止地域扱いとなっている。マヨンチットはウルシ科の果実であり、こうした規制対象に含まれる可能性が高く、たとえスーツケースに忍ばせても、空港の検疫で廃棄処分となる。

さらに根本的な問題がある。マヨンチットは栽培が難しく、国内タイでも生産量が限られている。輸出入の商業ルートが確立されておらず、日本国内ではほぼ流通していない。タイに行かなければ食べられない、という状況は当分変わりそうにない。

これが、このフルーツをより「特別」なものにしている。旅先でしか食べられない味、というのは、それだけで記憶に刻まれる価値を持つ。私が「バンコクへ行くなら2〜3月」と言い切る理由が、ここにある。

「マヨ活」のすすめ——バンコク滞在中に行きたいスポット

マヨンチットを中心に据えてバンコク旅行を組み立てるなら、以下の動線がおすすめだ。

  • サラディーン市場の屋台:BTSサラディーン駅から徒歩圏内。剥き身・種取り済みのマヨンチットを100バーツで購入。その場で食べるのが最良。
  • Topsスーパー(各地):シーズン中はRed Hot表示で79〜99バーツ。ホテルで食べる用に購入するのがいい。
  • After Youデザートカフェ:トンローなど各地に展開。マヨンチットかき氷やスムージーが期間限定で登場。塩唐辛子トッピングが通好み。
  • 産地・ナコーンナーヨック県:バンコクから車で約2時間。路上直売店でさらに新鮮なものに出会える。

2月に入ると、バンコクのカフェや飲食店がこぞってマヨンチットを使ったスペシャルメニューを出す。SNSで「#マヨ活」「#มะยงชิด」と検索すれば、その年のトレンドスポットがすぐにわかる。タイ在住日本人が毎年盛り上がるこのシーズンに、旅のスケジュールを合わせる価値は、十分にある。

バンコクを何度も訪れている人にこそ、「マヨンチットのシーズン」という新しい訪問軸を加えてみてほしい。食という切り口が、同じ都市をまったく別の場所に変える。

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この記事を書いた人

牛草貴博のアバター 牛草貴博 獣医師・博士(獣医学)

獣医師として臨床25年、40歳で博士号を取得しました。動物病院は横浜市中区、宮崎県宮崎市の二つの病院を経営しています。その間現在のイオンペット、動物再生医療技術研究組合、動物病院向けの12薬局、オーダーメイド腸内フローラフードの事業開発に携わってきました。また異業種の飲食のプロデュースをはじめとして現在はアタッシュドプレスルーム事業、ワーケーション施設の事業開発を行っています。食べることと鉄道を中心とした乗り物全般が趣味で最近はサーフィンやボディーボードなどを大学生以来再開しました。
もともと不動産が得意分野でしたが、株式、債券を中心とした金融全般も現在勉強中でいずれは自然に囲まれた中での3拠点生活を目標にしています。

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