小浜の熱源をハックする。「湯やど 蒸気や」で挑む、究極のセルフ蒸し料理 – ウシログ

BEARDを楽しんだ後

レンタカーの機動力を活かし、小浜の町を奔走する。

まずは「森崎豆腐店」へ。 ここの「ざる豆腐」は外せない。大豆の甘みが濃く、蒸すことでさらにそのコクが増すという情報を得ていたからだ。 店構えの素朴さに、期待値が上がる。

続いて、地元の鮮魚店へ。 発泡スチロールに無造作に並べられた地魚たち。 色鮮やかなベラや、澄んだ目をした白身魚。これらは刺身でもいける鮮度だが、あえて蒸す。 パックに詰められたイワシの煮付けや切り身も魅力的だが、今日は「丸ごと一本」を蒸気で攻めたい気分だ。

さらに、「雲仙ど真ん中」で豚肉を、「JA島原雲仙」で新鮮な根菜を確保。

スーパーで出来合いのものを買うのではない。専門店を巡り、その道のプロと言葉を交わしながら素材を選ぶ。このプロセスこそが、旅の解像度を高めてくれる。

昭和の風情と、海と一体化する湯
15:00過ぎ、両手に食材を抱えて「湯やど 蒸気や」の暖簾をくぐる。

通された部屋は、実に潔い和室だ。 畳、座卓、テレビ、そして部屋の隅には一組の布団。 過剰なサービスも装飾もない。だが、それがいい。「あとは好きに過ごせ」と言われているような心地よい放置感がある。

食材の仕込み(と言っても洗って切るだけだが)の前に、まずは身体を清める。 宿から歩いて数分、貸切風呂「波の湯 茜」へ。 海沿いの防波堤の向こうに作られたこの露天風呂は、まさに絶景だ。 湯船に浸かると、目線は水平線とほぼ同じ高さになる。 波音と風、そして塩分を含んだ熱い湯。 BEARDでの知的興奮を鎮め、身体を「野生」モードへとチューニングしていく。

100℃の蒸気圧との対峙
夕刻、いよいよメインイベントの開宴だ。 宿の中庭にある「蒸し場」へ向かう。 そこは、濛々たる白煙に包まれた異空間だった。 配管から轟音と共に噴き出す蒸気。硫黄の香りが微かに漂う。これは単なる調理器具ではない。地球の排気口だ。

買ってきた食材をざるに並べ、木製の重い蓋を開ける。 一瞬で視界が真っ白になるほどの蒸気量。 熱気(ヒート)ではなく、圧力(プレッシャー)を感じる。 豚肉、地魚、野菜、そして豆腐。それらを釜へ投入し、蓋を閉じる。

待ち時間は驚くほど短い。 100℃近い高温かつ湿潤な環境は、熱伝導率が極めて高い。 野菜なら数分、肉や魚でも10分〜15分もあれば十分だ。

「引き算」の極致
蒸し上がった食材を部屋に運び、酒を開ける。 まずは豚肉。余分な脂が落ち、繊維が解けるように柔らかい。 そして地魚。身がふっくらとして、凝縮された旨味が口の中で爆発する。 森崎豆腐店の厚揚げは、温まることで油が程よく抜け、甘みが活性化し、もはやスイーツのようだ。

調味料は、良質な塩と地元産の醤油に先程買った路地ものの柚子を一絞り。焼けば焦げるし、煮れば味が逃げる。 「蒸す」という調理法は、素材へのダメージを最小限に抑えつつ、そのポテンシャルを最大限に引き出す、最も理にかなった「引き算の料理」だと痛感する。そして小浜の温泉の湯気には、とんでもない隠し味が。海が近いために湯気にいい感じの塩分を含んでいるのだ。

博多や東京の高級店で食べる料理も素晴らしいが、ここには「自分で選び、地球の力で仕上げる」というプリミティブな喜びがある。

満腹の腹をさすりながら、畳の上でゴロリと横になる。 窓の外からは波の音が聞こえる。 明日は有明海を渡り、福岡へ。 静寂の夜をもう少し楽しもうと思う。

湯やど 蒸気や 長崎県雲仙市小浜町北本町14-7 0957-74-2101 https://jyo-kiya.com/

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この記事を書いた人

牛草貴博のアバター 牛草貴博 獣医師・博士(獣医学)

獣医師として臨床25年、40歳で博士号を取得しました。動物病院は横浜市中区、宮崎県宮崎市の二つの病院を経営しています。その間現在のイオンペット、動物再生医療技術研究組合、動物病院向けの12薬局、オーダーメイド腸内フローラフードの事業開発に携わってきました。また異業種の飲食のプロデュースをはじめとして現在はアタッシュドプレスルーム事業、ワーケーション施設の事業開発を行っています。食べることと鉄道を中心とした乗り物全般が趣味で最近はサーフィンやボディーボードなどを大学生以来再開しました。
もともと不動産が得意分野でしたが、株式、債券を中心とした金融全般も現在勉強中でいずれは自然に囲まれた中での3拠点生活を目標にしています。

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